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東京高等裁判所 平成12年(ネ)1158号・平12年(ネ)3111号 判決

主文

一  原判決を取り消す。

二  右取消しに係る被控訴人(附帯控訴人)の請求を棄却する。

三  訴訟費用(附帯控訴費用を含む。)は第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)

1  主文同旨

2  被控訴人の予備的請求を棄却する。

二  被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)

1  本件控訴を棄却する。

2  当審で追加した予備的請求(附帯控訴)

(一) 控訴人は被控訴人に対し、平成一二年九月二日が経過したときは、五五〇〇万円及びこれに対する同日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(二) 附帯控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

本件は、破産管財人が破産会社が入会していたゴルフクラブを経営する控訴人に対し、破産法五九条一項によりゴルフクラブ会員契約を解除したとして預託金及び遅延損害金の支払を求め(主位的請求)、当審において追加した予備的請求(附帯控訴)により預託金据置期間が満了したときに預託金及び遅延損害金の支払を求める将来の給付請求をする事件である。

一  前提となる事実(争いのない事実等、証拠により認定した事実は末尾に証拠を掲げる。)

1  丸石産業株式会社(以下「破産会社」という。)は平成二年九月一日控訴人が経営する「石坂ゴルフ倶楽部」に入会し、入会保証金五五〇〇万円を控訴人に預託した(以下、右入会契約を「本件契約」といい、入会保証金を「本件預託金」という。)。

2  破産会社は平成一一年五月二〇日東京地方裁判所で破産宣告を受け、被控訴人が破産管財人に選任された(甲一)。

3  被控訴人は控訴人に対し、平成一一年八月一二日に到達した内容証明郵便により本件契約を破産法五九条一項に基づいて解除する旨の意思表示をし、本件預託金の返還を請求した。

4  本件預託金の据置期間は平成一二年九月一日までである。

二  被控訴人の主張

1  預託金会員制ゴルフクラブの会員契約は、預託金を支払った後においても年会費の支払及び優先的プレー権とゴルフ場施設の提供とが対価関係を有する双務契約であるから、会員が破産したときは破産管財人は破産法五九条一項に基づいて右契約の解除をすることができる。

2  仮に契約の解除により相手方に著しく不公平な状況が生じる場合には破産管財人が破産法五九条一項に基づく解除権を行使することができないとしても、本件では控訴人が被控訴人に本件預託金を返還しなければならない据置期間満了日(平成一二年九月一日)が間近に迫っており、まだ控訴人は右解除に係る会員権をゴルフ会員権市場で譲渡することにより資金を回収することが可能であるから、本件契約の解除により控訴人に著しく不公平な状況が生じることはない。

3  また右契約の解除が認められない場合には、被控訴人は本件預託金の据置期間(平成一二年九月一日まで)が満了した時点で本件預託金の返還を請求することができるが、控訴人は預託金据置期間の延長を主張して返還義務を争っている(予備的請求に関する主張)。

4  よって、被控訴人は控訴人に対し、主位的に破産法五九条一項に基づく本件契約の解除を理由として本件預託金及びこれに対する訴状送達の日である平成一一年一二月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求め、予備的に将来の給付請求として本件預託金の据置期間の翌日である平成一二年九月二日が満了したときに本件預託金及びこれに対する同日から支払済みまで右割合による遅延損害金の支払を求める。

三  控訴人の認否、反論

1  被控訴人の主張1は争う。被控訴人が会員権を取得した時点で本件契約の双方の債務はいずれも履行が終わっているから破産法五九条一項に基づく解除をすることはできない。また会員は会則によりいつでも退会(すなわち入会契約の解除)することができるから破産法五九条一項に基づく解除をすることは許されない。

2  被控訴人の主張3は争う。本件預託金の据置期間は証書発行の日(平成二年九月一日)の翌日から一〇年後の平成一二年九月一日までであったが、控訴人は会則一五条二項により右据置期間を平成二二年九月一日まで延長した。

第三証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

一  主位的請求について

1  本件契約は預託金会員制ゴルフクラブの入会契約であるところ、預託金会員制ゴルフクラブの会員契約は、預託金及び年会費の支払とゴルフ場施設利用権の取得とが対価関係を有する双務契約であり、会員が預託金を支払って会員権を取得した後にあっても、会員の年会費支払義務とゴルフ場施設を利用可能な状態に保持して会員に利用させるというゴルフ場経営会社の義務とがなお残存することになるから、会員が破産したときは右各債務は破産法五九条一項にいう双方の未履行債務に当たると解される(石坂ゴルフ倶楽部においても会員は年会費の支払義務がある(甲五、乙一)。)。

2  しかし、破産法五九条一項が破産宣告当時双務契約の当事者双方に未履行の債務がある場合に破産管財人が契約を解除することができるとしているのは、契約当事者双方の公平を図りつつ、破産手続の迅速な終結を図るためであると解されるから、破産宣告当時双務契約の当事者双方に未履行の債務が存在していても、契約を解除することによって相手方に著しく不公平な状態が生じるような場合には、破産管財人は同項に基づく解除権を行使することができないというべきである。この場合において、相手方に著しく不公平な状態が生じるかどうかは、解除によって契約当事者双方が原状回復等としてすべきことになる給付内容が均衡しているかどうか、破産法六〇条等の規定により相手方の不利益がどの程度回復されるか、破産者の側の未履行債務が双務契約において本質的・中核的なものかそれとも付随的なものにすぎないかなどの諸般の事情を総合的に考慮して決すべきである。

3  いわゆる預託金会員制ゴルフクラブの諸施設の整備は、通常は多数の会員から利払の負担のない資金を預託金として調達することによって可能になるという経済的な実態があることは公知の事実であり、控訴人が経営する「石坂ゴルフ倶楽部」にあってもその実態は同様であると解される(弁論の全趣旨)。

このような実態にある預託金会員制ゴルフクラブの会員が破産した場合、破産管財人が破産法五九条一項により右入会契約を解除することができるとすると、ゴルフ場経営会社は、ほかの会員との関係からゴルフ場施設を常に利用し得る状態にしておかなければならない状況には何ら変化がないにもかかわらず、本来一定期間を経過した後に返還することで足りたはずでありしかも当初からゴルフ場施設の整備に充てられることが予定されていた預託金全額の即時返還を強いられる結果となる。このようなゴルフ場経営及び預託金利用の実態に照らすと、解除が預託金の据置期間満了日に近接した時期にされたとしても、預託金のように多額の金員を予定外の時期に調達しなければならないゴルフ場経営会社の負担は多大なものであり、またゴルフ会員権市場におけるゴルフ会員権の取引価格が低迷していることは公知の事実であるから、ゴルフ場経営会社が解除に係るゴルフ会員権をゴルフ会員権市場で売却したとしても預託金支払に充てた資金の十分な回収を図ることは困難である。

これに対し、破産財団の側はゴルフ場施設の利用権を失うだけであり、契約解除に伴う財産的な出捐を要しないのであるから、両者の均衡ははなはだ失しているといわざるを得ず、ゴルフ場経営会社が右解除によって生じる著しい不利益を損害賠償請求権として構成し、これを破産法六〇条により破産債権として行使することは通常困難である。加えて、会員の年会費は預託金と比べると一般に極めて小額で、その支払義務は会員契約の本質的・中核的なものではなく、破産管財人は破産法五九条一項による入会契約の解除ができなくともゴルフ会員権市場でゴルフ会員権を売却することが可能であり、また会則に定める方法によりいつでも退会の手続をとることが可能である(石坂ゴルフ倶楽部では会則の一八条に任意退会の規定がある。)。

4  以上にかんがみると、被控訴人が本件契約を解除するときはこれにより控訴人に著しく不公平な状況が生じるということができるから、被控訴人は破産法五九条一項により本件契約を解除することができないというべきである。

二  予備的請求に係る訴えについて

1  被控訴人は当審において預託金据置期間の満了を原因とする預託金返還請求を予備的に追加し、訴えの追加的変更をした。

2  しかし、本件記録によると、控訴人は原審において破産法五九条一項による解除を争うとともに本件預託金の据置期間(平成一二年九月一日まで)が満了していない旨主張し、合わせて控訴人が会則一五条二項により右据置期間を平成二二年九月一日まで延長し、そのことを被控訴人に文書で通知した旨の指摘をしたが、被控訴人は本件預託金返還請求は期限到来を原因とするものではないので期限未到来の主張は失当である旨の反論をし、預託金据置期間延長決議の効力について何ら審理がされないまま弁論が終結されたことが認められる。

また預託金据置期間延長決議の効力についてはこれまでに多数の裁判例が集積されており、延長決議以前からの会員との関係ではその個別的承諾を得ていない限り延長決議の効力を否定するものが多数を占める状況にあるが、預託金据置期間延長決議の効力は個々のゴルフクラブあるいは入会契約ごとに対象とされるゴルフクラブの会則の規定内容、延長を必要とする理由、延長の期間、入会契約締結時の個別事情等に基づいて個別具体的に判断されるべきものあるから、本件で控訴人が主張する預託金据置期間延長決議の効力についても右のような諸点について当事者双方の主張立証をまって判断すべきことになる。

3  そうすると、被控訴人の当審における訴えの追加的変更(附帯控訴)はこれにより訴訟手続を著しく遅延させることが明らかであるから許すべきではない。

第五結論

よって、原判決は不当であるから取り消し、右取消しに係る被控訴人の請求を棄却し、民事訴訟法二九八条一項、一四三条一項、四項により附帯控訴に係る訴えの変更を許さないこととし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 宮岡章 裁判官 田川直之)

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